~人生100年時代の資産形成~

【人生100年時代】

近年、金融を巡る環境は大きく変化している。金融を巡る特に大きな背景の変化として挙げられるのが、人口減少・高齢化の進展である。日本の総人口が減少局面に移行した中、長寿化は年々進行し、「人生100年時代」と呼ばれるかつてない高齢社会を迎えようとしている。

政府全体の取り組みとして高齢者雇用の延長、年金・医療・介護の制度改革、認知症対策、空き家対策など多くの政策が議論されている。

個々人においては「人生100年時代」に備えた資産形成や管理に取り組んでいくこと、金融サービス提供者においてはこうした社会的変化に適切に対応していくとともに、それに沿った金融商品・金融サービスを提供することがかつてないほど要請されている。

【高齢社会を取り巻く環境の変化】

令和時代を迎えた現在、平均寿命は男性約81歳、女性約87歳と大きく伸び、医療技術の進歩と相まって今後も更なる長寿化が見込まれている。ライフスタイルの変化や高齢者の介護の増加など、社会の様相も大きく変容してきた。

【世帯年収・支出の状況 】

日本はバブル崩壊以降、「失われた20年」とも呼ばれる景気停滞の中、賃金も長く伸び悩んできた。年齢層別に見ても、時系列で見ても、高齢の世帯を含む各世代の収入は全体的に低下傾向となっている。

公的年金の水準については、今後調整されていくことが見込まれているとともに、税・保険料の負担も年々増加しており、少子高齢化を踏まえると、今後もこの傾向は一層強まることが見込まれる。

【退職金給付の状況】

日本に根付いて来た賃金制度として、退職給付制度がある。かつては退職金と年金給付の二つをベースに老後生活を営むことが一般的であったと考えられるが、公的年金と共に老後生活を支えてきた退職給付額は近年減少してきている。

【金融資産の保有状況】

米国では75歳以上の高齢世帯の金融資産はここ20年ほどで3倍ほどに伸びている一方、日本の同年代の高齢世帯の金融資産はほぼ横ばいで推移しており、対照的な動きとなっている。
米国では市況が好調だったことに加え、401(K)プラン等の制度的な後押しもあり、現役から資産形成を実行し且つ継続するとともに、そのような世代が歳を重ねるに従い、高齢世帯の資産が増加していったと推察される。

この点、わが国でも近年積立 NISAやiDeCo等が整備され、個人が長期の資産形成を行うに際して、制度的な環境が整いつつある。

【金融環境に対する意識】

こうした環境変化に対応して、国民は老後の生活をどのように意識しているか。内閣府が実施した世論調査では、「老後の生活設計を考えたことがある」と回答した人は、全体の67.8%となっており、60代をトップに30代以上では軒並み50%以上となっている。

また、「ある」と回答した人に対して考えたことがある理由は何かと問うたところ、多数を占めた回答が「老後の生活が不安だから」であり、多くの人が老後生活に不安を抱いている現状がわかる。

【長寿化に伴い資産寿命を伸ばすことが必要】

これまでより長く生きる以上、今までより多くのお金が必要となり、長く生きることに応じて資産寿命を伸ばすことが必要になってくるものと考えられる。

重要なことは、長寿化の進展も踏まえて、年齢別、男女別の平均寿命などを参考にしたうえで、老後の生活において公的年金以外で賄わなければいけない金額がどの程度になるか、考えてみることである。
それを考え始めた時期が現役であれば、長期・積立・分散投資による資産形成を検討を、リタイヤ期前後であれば自身の就労状況の見込みや保有している金融資産や退職金などを踏まえて後の資産管理をどう行っていくかなど、生涯にわたる計画的な長期の資産形成・管理の重要性を認識することが重要である。

【公的年金の受給に加えた生活水準を上げるための行動】

人口の高齢化という波とともに、少子化という波は中長期的に避けて通れない。 公的年金制度が多くの人にとって老後の収入の柱であり続けることは間違いないが、少子高齢化により働く世代が中長期的に縮小してことを踏まえて、年金制度の持続可能性を担保するためにマクロ経済スライドによる給付水準の調整が進められることとなっている。

こうした状況を踏まえ、今後は年金受給額を含めて自分自身の状況を「見える化」して、自らの望む生活水準に照らして必要となる資産や収入が足りないと思われるのであれば、各々の状況に応じて 就業継続の模索、自らの支出の再点検・削減、そして保有する資産を活用した資産形成・運用といった「自助」の充実を行っていく必要があると言える。

【個々人にとっての資産形成管理での心構え】

長寿化が進む中、資産形成・管理において、資産寿命を延ばす観点から、広く国民が各々の人生のステージに応じて知っておくことが望ましい事項があると考えられる。

【現役期の資産形成・管理】

長寿化に対応し、長期・積立・分散投資など、少額からでも資産形成の行動を起こす時期である。
「人生100年時代」においてこれまでよりも長く生きる人が多いことを前提に、老後の生活も満足できるものとなるよう、早い時期からの資産形成の有効性を認識する 。

生活資金やいざという時に備えた資金については元本の保証されている預貯金などにより確保しつつ、将来に向けて少額からでも長期・積立・分散投資による資産形成を行う。
自らにふさわしいライフプラン・マネープランを検討することが大事である。

【リタイヤ期前後の資産形成・管理】

リタイヤ期以降の人生も長寿化していることに対応し、金融資産の目減りの抑制や計画的な資産の取り崩しに向けて行動する時期である。
人によって退職金などの多額のお金が入ったり、働き方に変化が生じることが想定されるため、これらを受けた対応が必要と考えられる。

退職金がある場合、早期の情報収集と使途の検討及び退職金を踏まえたライフプラン・マネープランを再検討する。

必要に応じ、収支の改善策を実行する。長い人生を見据えた長期・積立・分散投資などの中長期的な資産運用の継続とその後の計画的な取り崩しを実行する。

【高齢期の資産形成・管理】

資産の計画的な取り崩しを実行するとともに、認知・判断能力の低下や喪失に備えて行動する時期であり、心身の衰えに関わらず金融サービスを引き続き享受するために、事前の準備や対応が必要と考えられる。

心身の衰えを見据えて医療費や老人ホーム入居費用などのマネープランを見直す。
認知・判断能力の低下や喪失に備え、取引関係の簡素化など心身の衰えに応じた対応をしやすくする。

また、金融面の本人意思を明確にしておき、自ら行動できなくなったとしても、他者のサポートにより、これまでと同様の金融サービスを利用しやすくしておくこと。

このようにライフステージに応じたの資産形成・管理をしていく事が、これから益々重要になってきます。

出展【金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」令和元年6月3日】

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